ベランダ蘭栽培48 C. trianaei(カトレア トリアネー)
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【背景・特徴】
コロンビアの固有種で国花。 発見当初、ペタルとドーサルのピンク、筒状のリップ先端の濃ラベンダー、喉の奥の黄金と白色の4色を指して「quadricolor」と呼ばれたこともあった。 1860年、コロンビア・ボゴタ市民の植物学者Dr.triana(トリアナ博士)の名誉にちなんで、Reichenbach(ライチェンバッハ)によって命名された。 Lindley(リンドレイ)によって、現在はchocoensisがquadricolorという名称で呼ばれている。 当初は「trianaei」と記載されていたが、一時的に「trianae」と書かれていた時があり、混乱が生じていた。しかし、1960年以降、「trianaei」に戻すことが決定した。よって、現在では「trianaei」と書くのが正しいらしい。
【生育サイクル】
C. トリアネは初春頃生長を開始し、夏までにシースを完成し、生育の良い株はそこから二次生長を開始して、冬にバルブを完成させる。 その為には、花後すぐに生長を始められるよう、花を早めに切る、温度等の環境を整えることが重要である。1番芽が完成した後、水が少ないと2番芽が出ないことがあるそうである。 これ以外に、秋に肥料を施したり、夏が遅くまで暑い場合も(10月くらいまで暑い日が続くと)、押し子がでやすい。 一次発生したバルブは12〜1月に咲き、二次発生のバルブは約1ヶ月遅れの1〜2月咲きとなる
【自生地】
第1地区:Caldas(カルダス)州、Antioquia(アンチオキア)州、Cundinamarca(クンディナマルカ) 州、Boyaca(ボヤカ) 州にまたがる海抜1800-2500mの雲霧林 →この地区のtrianaeiは花が小さく、輪数も2〜3輪と少ない。 通常、花は薄桃色であり、ペタルやセパルは狭い。 この地区には、alba、quasi-alba、quasi-concolor、light-concolorなどの色彩変化がある。 この地区は第2地区と比較して乾燥しており、開花は8月と9月頃。
第2地区:Huila(フイラ) 州およびSouth Tolima(南トリマ) 州の海抜600〜1500m付近 →この地区のtrianaeiは花が大きく、輪数も多い。 草姿も大柄であり、バルブは太っていて強く、葉は丸っこい。 coerulea、semialba、rubura等の色彩変化も多い。 開花は雨季の開始前の7〜9月に起こり、第1地区より早い。
【開花ポイント】
花芽分化は、短日を感じる事により行われ、9月中旬〜10月中旬頃から行われるらしい。 光に良く反応するため、冬場に室内で明かりを点けて栽培していると短日を感じず開花しない(シースが出て花芽が出来ても、その花芽が大きくなれずにシケる) 温度に関しては、最低温度が13℃でも18℃でも花芽を分化させるため、温度に関しては厳密な品種ではないという説と、花芽分化には低温が関与するという説がある。
影響する因子を把握するため、自生地の温度・日照・降水量を調べ、考察した。
<温度について-東京と自生地近郊の比較-> 東京の温度 Bogotá ;ボゴタ(標高2547m)の温度 Pereira;ペレイラ(標高1342m)の温度(第1地区近郊) Ibagué;イバゲ(標高928m)の温度(第2地区近郊) →自生地近郊は、最高気温が20〜30℃、最低気温が5〜15℃前後であった。 日本は、最高・最低気温の変化が激しいが、冬季は室内や温室内で栽培される場合がほとんどなので、C.trianaeiが栽培されている場所の気温はもっと高いはずである
<日出・日入時間について-東京と自生地近郊の比較-> 東京(北緯35°) の日出・日入時間 コロンビア・Cali;カリ市(北緯4°)の日出・日入時間 →東京は緯度が高い為日の出・日の入り時間が変化するが、カリ市は赤道に近い為ほぼ一定であった
<日照について-東京と自生地近郊の比較-> →東京では、開花期の約3〜4か月前(9〜12月)に日照時間の減少がみられた。 東京の日照時間の減少には、日の出・日の入り時間が関係している可能性がある。 自生地近郊でも、開花期の約3〜4か月前(2〜6月)に日照時間の減少がみられた。
<降水量について-東京と自生地近郊の比較->
→東京では秋の長雨や台風?の影響か、9月に降水量が多い。これは9月の日照量の減少に関係している可能性がある。 自生地近郊では、3〜6月にかけて雨季となるため降水量が多い(日本の梅雨や9月よりもさらに多い地域もある)。これは、自生地の開花期前の日照量の減少に関係している可能性がある。 自生地近郊では、花芽分化期と生育期に十分な水分が供給され、開花期は水分供給が少なくなる。
<環境面を考慮した結果、私が得た結論> C. trianaeiの開花には、低温は大きな影響を与えない可能性が高い。 C. trianaeiの開花には、短日が関係している可能性が高い。この短日は、日本では日の出・日の入り時間や秋の長雨・台風等が関与し、自生地では雨季が関与している可能性が高い。 自生地近郊では、花芽分化期と生育期は、温度が高い場所では多めの、温度が低い場所ではやや少なめの水分が供給されている。
<考察> 以下は私の勝手な考察なので、間違っているかもしれないが、とりあえず記載してみた。
C. trianaeiの開花には、温度は関係なく、短日が関与している可能性が高いことがわかった。 では、ここでさらに一歩踏み込んで、C. trianaeiをはじめ、短日性のカトレアは、どのように短日を感じとっているのか考えてみた。葉やバルブに光を感じとるセンサーがあるのだろうか。否、高校で習った植物の細胞の構造を思い出す限り、そのようなものは存在しなかったはずである。 そこで、私は大胆な仮説を立ててみた。
植物が短日を感じるのは、光を直接感じとっている訳ではないのではないか。光から合成されるエネルギーの減少を感じ、その状態が一定期間続くことで、生存の危機を感じ、生殖成長のスイッチが入るのではないだろうか。
度々耳にする「死に花を咲かせる」、「今まで咲かなかった株が、株分けをしたら咲いた」といった現象も、この仮説を用いると、その機序が説明できる。 植物体が根腐れや株分け等のダメージを受けることによって、光合成で合成されるエネルギー量がそれまでと比較して減少し、その状態がしばらく続くことで、生存の危機を感じ、生殖成長が起こる、と考えられるのではないか。
自生地では、温度は開花に関係ない可能性が高いことが分かったが、上記仮説に基づくと、低温も場合によっては開花に影響する可能性がある。 植物も生物である以上、低温では活動が鈍るだろう。その証拠に、低温下では栄養成長を止めるものが多い。しかし、栄養成長を止めても光合成はしているはずであり、それまでと比べて光合成量が極端に低下しているとは考えにくい。おそらく低温は開花に関して、エネルギーの生成をわずかに低下させる、補助的な役割を果たしているのではないだろうか。 ただし、低温により植物が大きなダメージを受けた場合(例;低温障害、根腐れ等)、合成されるエネルギー量が一定期間大幅に減少するため、一時的に生殖成長をスタートさせる可能性はあると考える。
この性質は、おそらく栄養成長で十分に成熟したリードバルブのみが有し、リードの成熟→エネルギー合成量の低下という条件が満たされない限り、発動しないのではないかと予想する。 リード成熟後、仮にその年は短日条件を満たせず開花しなかった場合、翌年短日条件を満たしたからといって、そのバルブが開花することはない。 開花にはエネルギーを要する。もしも、未開花だったバルブが、短日条件を満たした年に一斉に咲いてしまうと、その年のエネルギー消費量は莫大となり、その後の栄養成長に支障をきたし、厳しい自然環境の中で、植物体自体が存続の危機にさらされる可能性が高くなる。 よってその年に条件を満たせなかった場合は、そのリードは水分と養分の貯蔵庫として、また光合成によるエネルギー生産の工場としてのみ活用され、翌年以降そのバルブが生殖成長に移行することはなく、新たなリードに生殖成長を託すような形態に進化したのではないか。
その年に、条件が整い過ぎてエネルギーが十分にある場合は、栄養成長と生殖成長が同時にみられることがある。花芽分化と2番芽の成長が同時にみられる場合である。これは、栄養と生殖にエネルギーが分散される為、成熟したバルブは相対的にエネルギーの減少を感じ生殖成長に移行し、並行して2番芽も成長している状態と解釈する。よって、同一の年であれば、開花と新芽の成長は両立するものと思われる。
以上より、C.trianaeiはその年に十分に成熟したバルブにおいてのみ、生産されるエネルギーの低下を感じた場合開花し、これは低温で栄養成長を止めた場合でも、条件が良すぎて2番芽を成長させている場合も成立すると考えられる。
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